無
む / Mu
無(む)の意味
意味
「無」は、単に「何もない」という意味ではありません。「ある」と「ない」、「正しい」と「間違い」といった二つに分ける考え方そのものを、いったん手放すことを示す言葉とされます。頭で答えを出すのではなく、考えが止まったところに開ける何かに触れるための入り口です。
出典・由来
代表的な出典は、南宋の無門慧開が1228年にまとめた公案集『無門関』の第一則「趙州狗子」です。ある僧が唐代の禅僧・趙州従諗に「犬にも仏性がありますか」と尋ね、趙州は「無」と答えました。経典では一切の生きものに仏性があると説かれるため、この答えは問う者を行き詰まらせます。なお、別の伝承(『従容録』など)では趙州が「有」と答えた場面も記されており、「無」が単なる否定ではないことがうかがえます。
悩みへの生かし方
悩んでいるとき、私たちはつい「うまくいくか、いかないか」「あの人は味方か、敵か」と、答えを二つのどちらかに決めようとします。けれど、決められないまま頭の中で同じ問いを何度も回していると、心はどんどん疲れていきます。「無」は、その問いの立て方自体をそっと脇に置いてみる、という見方を教えてくれます。 たとえば仕事の評価や人間関係のこじれで眠れない夜、「どうすれば正解か」を探すのを少しやめて、ただ息をしている自分に戻ってみる。答えが出ないことを失敗と考えず、答えのない場所にしばらく座っていてもいいのだと思えると、張りつめたものが少しゆるむことがあります。
今日の小さな実践
何かに迷ったら、目を閉じて吐く息に合わせて心の中で「むー」と一度だけ長くとなえ、考えが戻ってきたら追わずにまた息に戻ってください。